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月刊糖尿病 121号
月刊糖尿病123号(Vol.12 No.3, 2020)

A4変型判/96頁
価格:本体3,600円+税
ISBNコード:978-4-287-82120-6

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特集●糖尿病患者における感染症

企画編集/三鴨廣繁

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 糖尿病患者における三大合併症は,糖尿病網膜症,糖尿病性神経障害,糖尿病性腎症である.高血糖状態が長く続くと細小血管が障害を受けて,血管が詰まったり血液が漏出したりするようになる.このため,細小血管から栄養を補給されている末梢神経や細小血管が張り巡らされている組織(網膜や腎臓など)に異常が現れる.細小血管症の発症・進行を抑えるには,できるだけ正常に近い血糖コントロールが重要である.糖尿病のコントロールは前述した三大合併症の可能性を低下させることが最優先であることに異論はないが,古典的には三大合併症以外に,糖尿病患者は感染症に罹患しやすいことが知られている.
 糖尿病のコントロール不良の患者では免疫能が低下し,感染抵抗力も低下している.糖尿病によって血流が停滞し,組織まで血液が十分に到達せず,組織における酸素不足が白血球の殺菌能低下につながり,病原体が増殖しやすい状況を作り出している.また,慢性血流不全の状態が継続すると,感染症の治療のため投与された抗菌薬の感染組織中の濃度が低下し,治療効果も低下することになる.さらに消化管の血流も低下しており,内服抗菌薬の吸収も低下している.
 糖尿病患者では,皮膚の血流が不十分になっていることが多いため,足に潰瘍や壊死がみられることがあり,足壊疽まで進行すると足や下肢の切断が必要になることがある.また,小さな外傷であっても,修復が不十分となり,皮膚潰瘍が生じ皮膚軟部組織感染症をきたす場合もある.したがって,糖尿病患者で各種手術が必要な場合に,血糖コントロールが重要となることはいうまでもない.最近の周術期ガイドラインや敗血症ガイドラインでは,血糖コントロールの重要性が記載されている.
 糖尿病患者では,自律神経にも障害が認められることがあり,排尿時に膀胱神経が適正に機能せず,残尿も多くなるため,残尿中に侵入した病原体が増殖し,膀胱炎や腎盂腎炎といった尿路感染症に罹患しやすくなる.
 糖尿病の患者の口腔内や食道の粘膜では真菌が増殖しやすくなっており,女性の外陰・膣部についても同様である.また,足趾の間や爪には白癬症が発症しやすく,その病変部分から新たな細菌が侵入することもある.
 糖尿病による神経障害が存在すると,なんらかの感染症の症状がみられても,本人は気づかないため,病院受診が遅れる.たとえ受診したとしても,症状が適切に医師に伝わらないと,診断と治療が遅れてしまうこともある.一般的に,なんらかの感染症があると医師は原因となる病原体を推測して経験的治療を開始するが,糖尿病患者においては通常と異なる病原体が原因となっていることもあり,治療が難しい状態であるともいえる.
 本特集を通じて,糖尿病患者における感染症を再考する契機になれば企画者として幸いである.

三鴨廣繁




1. 糖尿病と易感染性
1-1. 糖尿病における感染症リスク上昇のメカニズム/南 陽平,横溝 久,小川佳宏
1-2. 糖尿病患者における感染症ハイリスク患者群への対応/藤田次郎,砂川智子
2. 疫学
日本人糖尿病患者の死因と感染症/中村二郎,神谷英紀
3. 合併症と感染症,その治療について
3-1. 糖尿病と足病変:皮膚/軟部組織感染症/
柴田祐一,萩原真生,浅井信博,小泉祐介,山岸由佳,三鴨廣繁
3-2. 糖尿病と尿路感染症/石川清仁
3-3. 糖尿病と呼吸器感染症/宮下修行,尾形 誠,福田直樹
3-4. 糖尿病と歯周病/西田 亙
3-5. 糖尿病と腸内細菌/中島裕也,入江潤一郎,伊藤 裕
3-6. 糖尿病治療薬と感染症〜SGLT2阻害薬,DPP-4阻害薬を中心に〜/海老原文哉,浜田幸宏
4. 抗菌薬・抗真菌薬(経口薬・注射剤)
糖尿病患者への抗菌薬・抗真菌薬の使用/萩原真生,山岸由佳,三鴨廣繁
5. 特殊病態下における糖尿病患者の感染症コントロール
5-1. 糖尿病,非糖尿病患者の周術期血糖コントロール/竹末芳生,米田采未
5-2. シックデイ/江島洋平,神谷英紀,中村二郎