A4変型判
2025年3月発行
定価2,640円(本体2,400円+税10%)
ISBNコード:978-4-287-73117-8
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特集にあたって
リンパ浮腫は,リンパ管の異常によりリンパ輸送が障害され,皮膚・皮下組織内の組織間液量を正常に保てず過剰となり発症します。
乳がん手術後は上肢に,婦人科がん手術後は下肢に発症する可能性がある続発性リンパ浮腫は,がんの治療を乗り越えた患者にとって肉体的にも精神的にも苦痛を伴います。また,リンパ管を損傷するような明らかな原因がなく発症する原発性リンパ浮腫は,生まれつきや思春期ごろなど若年で発症することが多く,患者・家族ともに浮腫に悩まされます。
続発性・原発性ともに,いったん発症すると完治させることは難しく,とくに重症化すると改善させることも難しくなるため,発症早期からケアを開始して悪化させないことが重要です。しかし,リンパ浮腫指導管理料が保険収載され複合的治療を保険診療で受けられる現在でも,発症早期からケアできる医療機関数は患者側のニーズに合うほどはなく,症状の悪化したリンパ浮腫に悩む患者は少なくありません。その原因としては,医師・看護師が学生時代にリンパ浮腫の基礎知識について学ぶ機会が少なく,就業してから必要に迫られ特別に時間を割いて講習を受ける現状に問題があるかもしれません。
現在「リンパ浮腫複合的治療料」を算定できる医療機関の施設基準には,「リンパ浮腫研修」で行われている33時間の座学を修了した医師とともに,座学に加えてリンパ浮腫研修運営委員会が認定した協力教育団体で67時間の実技講習を受けて修了試験に合格した医師,看護師,理学療法士もしくは作業療法士が治療にあたる必要があります。日常業務に加えて講習を受ける時間を確保することは非常に難しいため,複合的治療料を算定できる医療機関数はあまり増加していないのが現状です。
ただ,重症化したリンパ浮腫患者には積極的な複合的治療が必要ですが,発症早期の軽症患者では患肢の状態を維持できる日常生活指導や適切な弾性着衣の着用を指導できるだけでも重症化予防につながります。すなわち専門的な研修を受けていなくても,リンパ浮腫に関する基礎知識をもった医療従事者が増えることは,リンパ浮腫の発症早期からケアを開始できる患者が増えることにつながるはずです。
リンパ浮腫は,まず皮膚・皮下組織に初期症状が現れ,進行するとリンパ小疱やリンパ漏・象皮症などの皮膚合併症がみられるという特徴があるため,皮膚関連のトラブルにかかわることが多いWOCナースには,リンパ浮腫に関連した基礎知識を学んでいただき,軽症患者の早期発見や皮膚合併症に対するケアに携わっていただくことを期待します。また,リンパ浮腫のケアのうち圧迫療法や運動療法は,その他の原因による慢性浮腫のケアにも応用できるため,ぜひとも理解してください。
そこで今回の特集は,リンパ浮腫に関する知識が少ない方でもわかりやすいように,リンパ浮腫診療の第一線で活躍されている先生方に執筆していただきました。明日からの臨床に役立てていただければ幸いです。
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