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WOC Nursing 19年9月号
A4変型判
2019年9月発行
定価2,640円(本体2,400円+税10%)ISBNコード:978-4-287-73070-6
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特集陰圧閉鎖療法による治療とケアの基本
企画編集/館 正弘(東北大学大学院 医学系研究科 外科病態学講座 形成外科分野 教授)
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 陰圧閉鎖療法は,現在用いられている様式で1995年に製品化されると,創傷管理方法に革命をもたらしました。そのインパクトは1960年代以降の湿潤療法に匹敵すると捉えてもよいでしょう。創傷治療に関しては下記のメカニズムがあります。
1. マクロ的な創縁引き寄せ効果:創面に均等に圧をかけて引き寄せることで創の体積を効率よく縮小させる。縦隔炎で大きく胸骨が離開している場合でも,胸郭を安定させることが可能である。
2. 微小機械的刺激作用:ポリウレタンフォーム近傍の細胞は陰圧閉鎖療法によって機械的刺激を受ける。これが細胞を活性化し,血管新生を促し肉芽増生に寄与する。
3. 滲出液の排出:滲出液を持続的に排出することが組織の浮腫の軽減につながる。また過度な湿潤環境にならないことも利点である。ドレッシングの交換回数が減少することから省力化にも寄与する。
4. 創面環境の調整:炎症反応の改善や,低酸素状態による血管新生の誘導体,神経ペプチド濃度の上昇などが誘導される。
 最後に,いまだに議論が続いている点ですが,感染創への適応について述べます。陰圧閉鎖療法によって創部の細菌数が減少するのではないかと期待されましたが,そのような効果は得られないことが定説となりつつあります。これに対しては陰圧閉鎖療法に洗浄を組み合わせた方式が開発されています。
 創傷の管理は職種横断的に行われることが必須ですが,陰圧閉鎖療法に関しては,看護の果たす役割は重くなります。陰圧閉鎖療法は軟膏処置や被覆材を用いた創傷管理よりも,24時間持続的に,かつ能動的に創傷治療に関与するためです。まず機械のメカニズムに精通し,動作確認ができなければなりません。実際の貼付手順の理解も必須です。また,この処置を行っている間のADLの確保や交換時の疼痛管理,アラームへの対処やリーク対策,物品の準備や保険請求の伝票処理なども必要となります。このような理由もあって「創傷に対する陰圧閉鎖療法」が厚生労働省の定める特定行為に指定されています。
 陰圧閉鎖療法が創傷治療に革命をもたらしたと最初に記しましたが,適応はさらに急速に拡大する方向にあります。難治性潰瘍がそもそものターゲットでしたが,むしろ外傷創などの急性創傷によい適応があることが確認され,さらに植皮の固定などにも応用されています。高エネルギー外傷における軟部組織欠損の初期治療として大きな役割が確認されています。また腹部救急の臨床においては,救命のための必須アイテムとなっており,腹部開放創用局所陰圧閉鎖キットが2019年3月に保険適用が認められました。感染を伴う創傷は最も治療が難しいところですが,洗浄機能を組み合わせた陰圧閉鎖療法についても臨床応用されています。
 本特集では,進化し拡大を続ける陰圧閉鎖療法の臨床を,第一線で活躍している筆者にお願いして解説いただきました。

館 正弘
東北大学大学院 医学系研究科 外科病態学講座 形成外科分野 教授


1. 陰圧閉鎖療法の歴史・位置づけ・将来展望/大浦紀彦,森重侑樹,中山大輔,日下邊直樹,小倉ふみ子,赤木健一郎,木下幹雄,多久嶋亮彦
2. 陰圧閉鎖療法と看護,貼付困難な部位への適応方法/加瀬昌子
3. 縦隔洞炎と創内持続陰圧洗浄療法の実際/守永圭吾,清川兼輔
4. 間欠洗浄療法を伴う陰圧閉鎖療法の実際/川野啓成,上村哲司
5. 外来での陰圧閉鎖療法/藤井美樹
6. 縫合創への予防的陰圧閉鎖療法/林 昌伸,後藤孝浩,館 正弘
7. 腹部開放創への局所陰圧閉鎖療法〜腹部コンパートメント症候群とopen abdomen management〜/久志本成樹,佐藤武揚,谷河 篤
8. 人工真皮・植皮と陰圧閉鎖療法/森本尚樹
9. 重度四肢開放骨折に対する陰圧閉鎖療法の使い方/田村亮介
10. 慢性創傷と陰圧閉鎖療法/齋藤順平,市岡 滋