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月刊糖尿病 126号
月刊糖尿病126号(Vol.12 No.6, 2020)

A4変型判/96頁
価格:本体3,600円+税
ISBNコード:978-4-287-82123-7

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特集●全容が解き明かされつつある糖尿病遺伝素因

企画編集/堀川幸男

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 糖尿病と診断した場合には,その成因についても必ず検討する必要がある.糖尿病の成因にさまざまな程度でかかわる遺伝素因を正しく把握することは,患者のみならずその家族についても,病態に応じた最適な治療法の選択と予後の改善につながる.糖尿病の原因遺伝子の多くは,糖尿病において最も重要なホルモンであるインスリンの分泌にかかわっている.
 たとえば,若年発症糖尿病(MODY)は,単一遺伝子の変異によって糖尿病を発症する単一遺伝子疾患の糖尿病であり,膵β細胞の機能低下により,若年でインスリン分泌不全型の糖尿病を発症する.欧米では,MODYが疑われる症例の8割に既知MODY遺伝子変異が検出されているが,日本人においては3〜4割程度しか検出されず,多くの未知希少MODY遺伝子の存在が推測される.既知MODY蛋白は互いに密接に連携した転写因子ネットワーク「膵島機能ネットワーク」を構成しており,臨床像が類似する未知MODYの原因遺伝子も,同ネットワークに属する転写因子または標的分子をコードすると推定されている.一方,最近の肥満若年層における急激な糖尿病患者の増加は,食生活などの環境変化に対する体質の応答結果であり,肥満,インスリン抵抗性などを惹起する遺伝素因の解明とともに,環境因子の遺伝素因への影響の解明(エピジェネティクス)もまた急務である.
 昨今NGSはじめゲノム解析ツールの進歩は著しく,獲得された膨大なデータを正確かつ迅速に処理できるが,ゲノム上の真の病的変異を決定することは容易ではなく意義不明変異(VUS)が多く認められる.従来の時間と手間を要する細胞・個体レベルの機能解析を回避できることから,良きにせよ悪しきにせよ,in silico解析のみで結論を出す風潮が強い現状では,このVUS解析ツールシステムの開発が今後の遺伝素因解明のキーを握っている.これに関しては,臨床情報,遺伝情報を集積し,スパコン・AIを駆使することによってはじめて現状を打開できると考えている.なお上述の取り組みは,「単一遺伝子異常による糖尿病の成因,診断,治療に関する調査研究委員会」が日本糖尿病学会内に設立されており,現在オールジャパンで進められている.
 MODYなど単一遺伝子異常による糖尿病に関連する遺伝子解析による知見は,今後,遺伝子−遺伝子相互作用を考慮しなければならない少数遺伝子疾患やコモンの多因子型糖尿病(T2DM)の遺伝学的解明の礎になると考えら
れる.新規の糖尿病遺伝子の同定によって,未知のインスリン分泌不全機構が分子レベルで明らかになり,新たな創薬標的が見つかるだけでなく,その知見が大多数を占めるインスリン分泌不全を特徴とするコモンの日本人2型糖尿病(T2DM)の病態解明や治療開発に展開されることも疑いない.

堀川幸男
(岐阜大学大学院 医学系研究科 内分泌代謝病態学 臨床教授)




1. 1型糖尿病のGWAS/川畑由美子
2. 若年発症糖尿病(MODY)〜MODY1-6の病因と病態について〜/塩谷真由美,堀川幸男
3. 若年発症糖尿病(MODY)〜MODY1-6以外の病因と病態について〜/古田浩人
4. 新生児糖尿病の遺伝子異常/依藤 亨
5. ミトコンドリア糖尿病の成因と治療/岩?直子
6. ウォルフラム症候群について/椎木幾久子,田部勝也,谷澤幸生
7. インスリン受容体異常症について/山内敏正,細江 隼,庄嶋伸浩,門脇 孝
8. 先天性脂肪萎縮症の遺伝素因/海老原 健
9. その他の単一遺伝子異常による糖尿病から,環境要因の遺伝素因への影響まで/安田和基
10. 2型糖尿病のGWAS/前田士郎
11. 次世代シークエンサー(NGS)による新規糖尿病遺伝子同定のピットフォール
  〜in silico解析による意義不明変異(VUS)の取り扱いについて〜/細道一善
12. 2型糖尿病感受性遺伝子多型の同定とポリジェニック・リスク・スコアのプレシジョン・メディスンへの応用/鈴木 顕
13. 糖尿病遺伝素因解明のためのコンソーシアムの設立/田中大祐