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月刊糖尿病 118号
月刊糖尿病 118号(Vol.11 No.4, 2019)

A4変型判/112頁
価格:本体3,600円+税
ISBNコード:978-4-287-82115-2

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特集●糖尿病専門医として知っておきたい歯周炎のこと

企画編集/栗原英見

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 歯周炎は糖尿病の第6番目の合併症といわれている.一方で,歯周炎のコントロールは血糖値コントロールにも影響を与え,糖尿病と歯周炎の間には相互作用がある.「歯周病」は「歯肉炎」と「歯周炎」に大別される.「歯肉炎」は歯根面への上皮付着が維持され炎症は歯肉組織に限局し,「歯周炎」は上皮付着が破壊され(アタッチメントロスと歯周ポケットの形成)歯根面への細菌の侵入と付着が生じる.糖尿病に深く関連しているのは「歯周炎」である.歯周炎は細菌の慢性感染とそれに対する慢性炎症である.歯周炎は糖尿病と同じように,強い自覚症状がほとんど出現しないために治療せず放置する人も多い.歯周病原細菌の多くは偏性嫌気性,グラム陰性菌で血液要求性がある.そのなかでもPorphyromonas gingivalisはLPS,gingipain,線毛などさまざまな病原因子を有し歯周炎の発症・進行に深くかかわっている.歯周炎患者ではP. gingivalisに対する血清抗体価は高く,P. gingivalisは血管,肝臓,脳,胎盤などさまざまな臓器から検出されている.また,マウスにP. gingivalisを感染させることによって,肝炎,関節リウマチ,アルツハイマー病などの疾患が再現できる.さらに,近年,P. gingivalisの口腔感染によって腸内細菌叢の乱れが誘導されることが動物モデルで示され注目されている.
 歯周炎の治療の基本は細菌バイオフィルムの除去である.細菌バイオフィルムは歯根面で歯石となり歯石表面には多くの細菌が付着・増殖している.歯肉縁上の細菌バイオフィルム(臨床的には歯垢やデンタルプラークと呼ばれる)の除去は患者自身のブラッシングに委ねられ,歯肉縁下(歯周ポケット内)の細菌バイオフィルムは歯科医師・歯科衛生士が機械的に除去(スケーリング)し,同時に汚染された歯根表面のセメント質も機械的に除去・滑沢化(ルートプレーニング)する.歯周組織の破壊が比較的軽度で狭い形の場合は歯周組織再生治療が適応され,近年,塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が歯周組織再生治療薬として保険適用になった.歯周炎治療のための指標は多数あり複雑である.日本歯周病学会では患者個々の歯周炎の程度を1つの塊として評価するシンプルな指標を新たに導入し,歯周炎とさまざまな疾患との関係の解析に役立てようとしている.
 歯周ポケット内面は上皮で覆われているが,常に細菌に曝されているため潰瘍を形成した状態である.歯周ポケット内面は易出血性であり常に血流に歯周病原細菌が入り込んでいる(日常的菌血症).歯周炎は慢性的に進行するので,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインが長期にわたって産生され血中に移行する.また,歯周炎によってCRPも慢性的に軽度に上昇している.慢性歯周炎の状態が長期間(ときには十数年間)放置されると歯周病原細菌やLPS,炎症性サイトカインが血流を介してさまざまな臓器に移行する.その結果,慢性的な歯周炎の存在と糖尿病,血管障害・高血圧,慢性腎疾患,非アルコール性脂肪性肝炎,アルツハイマー病,骨代謝・骨粗鬆症,早産・低体重児出産と関連していると考えられている.
 本特集では歯周炎の病理を基礎医学の視点から解説したうえで,歯周炎の治療の実際と歯周炎の新しい評価法をまとめた.また,糖尿病だけでなく糖尿病と背景を一にする疾患や関連する疾患と歯周炎とのかかわりについて,最新の知見をまとめている.

栗原英見
(広島大学大学院 医系科学研究科 歯周病態学研究室 教授)




1. 歯周病の病理/井上 孝
2. 歯周病の細菌学/松尾美樹,小松澤 均
3. 歯周病進行に伴う歯周組織の免疫応答と歯周組織再生療法/柏木陽一郎,村上伸也
4. 歯周病の分類と歯周炎の基本的な治療/五味一博,小松 翔
5. 歯周病の新しい捉え方/高柴正悟
6. 歯周病と肥満・糖尿病/佐野朋美,西村英紀
7. 歯周病による腸内細菌を介した代謝性疾患への影響/山崎和久
8. 歯周炎と血管障害・薬物性歯肉増殖症/松田真司
9. 歯周病と慢性腎疾患(CKD)/成石浩司,湯本浩通
10. 歯周病原細菌P. gingivalis感染と非アルコール性脂肪性肝疾患/宮内睦美,高田 隆
11. 歯周炎と骨代謝・骨粗鬆症/吉成伸夫,宇田川信之,田口 明
12. 歯周炎と妊娠・出産/古市保志,加藤幸紀,長澤敏行