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月刊糖尿病 13年5月号
月刊糖尿病2015年3月号 SOLD OUT

2015年2月20日発売
A4変型判/96頁
価格:本体2,700円+税
ISBNコード:978-4-287-82069-8
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特集●糖尿病領域における再生医療の現状と展望

企画編集/川口義弥(京都大学iPS細胞研究所 教授)
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 糖尿病は腎・網膜疾患など微細血管障害による病態の主因となるだけでなく,心疾患や脳血管障害などの大血管障害にも関与することが明らかになってきたことから,糖尿病患者の管理はますます重要な意味を持つ.ES細胞やiPS細胞の開発以来,糖尿病に対する再生医療実現の期待には大きなものがあるが,これまで世界中の多くの研究者の努力にも関わらずいまだ実現されていない.
 糖尿病に限らず,多能性幹細胞から目的の細胞を作り出して再生医療に役立てようという技術開発は,「発生現象を培養皿上で再現する」という根本理念に基づいている.つまり,受精卵から臓器が形成される機構を可能な限り丸ごと(あるいは一部のみを)再現してヒトES/iPS細胞から臓器を作るという戦略である.ヒト膵発生の詳細を知ることはきわめて困難であるが,遺伝子改変マウスに代表される発生学的実験手法によって明らかになってきたマウス膵発生機構はヒト膵発生と類似していると推察される.したがって,マウス発生学の理解はヒト多能性幹細胞からの機能的細胞作製にきわめて重要である.
 基礎研究による機能的膵細胞作製方法の確立に加えて,実際の臨床応用に堪える細胞数の確保すなわち量産技術の開発なくして再生医療は実現しない.ヒト臨床膵島移植は世界中広く行われている確立された医療技術であり,その適応と治療目標,長期成績を俯瞰することは,糖尿病に対する再生医療が目指すべき到達点/医療としての定着に要求されているポイントの指標となりうる.臨床膵島移植における門脈内移植方法は安全性と有効性が確立したものであるが,多能性幹細胞から作製した細胞の移植方法に関しては,最終産物の安全性とのバランスから最終的に移植方法を決定することが望ましい.また,移植後の拒絶反応については,自己の細胞から樹立したiPS細胞を用いれば問題が解決するように思われがちだが,iPS細胞の樹立そのもののコスト,さらには同一細胞をもとに同一シャーレで形成される複数のiPS細胞コロニー間においてでさえ分化能力/腫瘍形成リスクが異なることを鑑みれば,現時点では現実的な方策とは考えにくい.
 このように糖尿病に対する再生医療実現の前に立ちはだかるさまざまな問題点を想定すると気が遠くなるが,私はこのような“もの作り”を目指した研究開発においては,「現状の知見/既存技術を最大限駆使してより良いものを作り出そう」という姿勢では不十分であり,ゴールの達成は覚束ないと考える.「どのようなものが求められているか?〜最初にゴールの設定を明確にし,それに向けて全力で立ち向かう姿勢〜」がきわめて重要である.個々の問題の解決にむけて,それぞれの研究者のオリジナリティー溢れるアイディアと血の滲むような努力を結集して邁進するしかない.まさにオールジャパンの体制で暗黒大陸を切り拓くべきである.本特集では糖尿病領域における再生医療研究の現状と展望に関し,我が国のトップランナーである先生方に最新の知見を含めて執筆をお願いした.また,膵島機能の獲得や機能維持には細胞単位ではなく,組織構築の獲得が重要であるという観点から,多能性幹細胞を用いた肝臓や腎臓の立体的組織作製技術に関する知見も盛り込んだ.
川口義弥
(京都大学iPS細胞研究所 教授)
1.膵発生の分子機構/藤谷与士夫
2.多能性幹細胞からの膵島組織作製/渡邊亜美,宮島 篤
3.ケミカルバイオロジーを応用した機能的β細胞作製/坂野大介,粂 昭苑
4.iPS細胞を活用したヒト臓器の創出/谷口英樹,武部貴則
5.多能性幹細胞からの立体的腎臓組織の作製/吉村仁宏,太口敦博,西中村隆一
6.脱細胞化技術を用いた臓器再生/八木 洋,北川雄光
7.再生医療製品の大量生産技術開発/三原裕一郎,松浦勝久
8.臨床膵島移植の現状/佐藤直哉,穴澤貴行,後藤満一
9.免疫拒絶を回避しうる新たな膵島移植方法/岩田博夫,小長谷周平
10.マイクロ・ナノデバイス技術の糖尿病医療への応用/竹内昌治