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CIRCULATION 5月号
月刊循環器CIRCULATION 5月号

13年4月25日発売
A4変型判120頁
価格:本体¥2500+税
ISBNコード:978-4-287-83021-5
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特集ACSの診断と治療

企画編集/横井宏佳
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 急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)は,プラーク破綻と血栓形成により生じる冠動脈病変の急激な変化により,心筋虚血が惹起された結果発症する症候群であり,急性心筋梗塞症,不安定狭心症,心臓突然死が含まれる.欧米に比較して,この疾患の発症率や死亡率は低いといわれているが,過食と運動不足は確実に日本人の動脈硬化を促進させ,ACSの発症年齢は若年化している.昨年,30代のサッカー選手が練習中に突然死したのは記憶に新しいところである.少子高齢化をどの国よりも早く迎える日本にとって,働き盛りの人口が減少することは大きな損失であり,対策を講じるためには,まず冠動脈疾患発症率の把握と地域特異性を調査する必要がある.そして,日本人のACSはどのような患者に発症し,どのような生活習慣が影響しているのか,実態調査が必要である.
 救急医療体制は,発症の予測がきわめて困難なACSの死亡率を減少させるために重要なリスクマネジメントである.自動体外式除細動器,救急蘇生法は多くの人々の努力により普及し,病院到着後のdoor-to-balloon時間の短縮が予後を改善することが明らかとなり,院内緊急体制は整備された.しかし,さらなる予後改善のためには,発症直後から病院到着までの時間をさらに短縮することが求められている.そのため,心電図診断も含めた救急隊との新たな協力体制を確立する必要がある.
 ACSの診断方法としては,今でも心電図がgold standardであるが,より発症早期に捉えるためにはバイオマーカーの活用が欠かせない.この領域は日進月歩であり,新しいマーカーが次々臨床応用されているが,どのマーカーをどの時期に使用することが臨床的に有用なのかについて議論が続いている.
 また,ACSの原因である不安定プラークの存在を発症前に診断することは,治療,予防を考えるうえできわめて重要である.不安定プラークは冠動脈造影検査では見極めることができず,血管内エコー,光干渉断層法などの各種侵襲的画像診断の研究が進んでいる.また,非侵襲的画像診断としてMDCT,MRIの臨床経験も蓄積されている.不安定プラークは存在しているからといって破裂するわけではない.なにが不安定プラーク破裂のトリガーになるのか,プラーク内の分子生物学的機序や血行力学的機序が関与しているのか,研究は続いている.
 冠動脈閉塞により酸素,エネルギーを遮断された心筋は速やかに収縮能を失い,左室機能不全に陥る.壊死心筋は浮腫,細胞浸潤を経て線維組織に置換され梗塞部位は菲薄化する.その後非梗塞領域は一回拍出量を維持するために代償機転が働き拡大し,この左室リモデリングの程度が梗塞後の心不全の発症に影響を及ぼす.また,梗塞辺縁領域において電気的興奮伝搬が不均一となり致死性不整脈を引き起こす.このような病態に対しても適切な診断と治療が必要である.
 ACSに対する再疎通療法の意義については疑いの余地はないが,その施行のタイミングについては議論が続いている.プラーク破裂により,冠動脈局所のみならず血小板機能,血液凝固系のすべてが活性化し不安定な状態となる.このような状況で冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)を行う場合には,適切な抗血栓療法が施行されなければならない.抗血小板療法の重要性は多くのエビデンスから明らかであるが,日本では最も強力なGP Ⅱb/Ⅲa阻害薬が未承認であり,日本人特有の抗血小板薬に対する耐性の問題もあるため,投与期間も含めて至適な治療法を追究しなければならない.また,新しい抗凝固薬の国際共同治験も開始され,どのような役割を果たすのか興味深い.PCIはほぼ確立した治療法であるが,一方で,末梢塞栓防止デバイスの役割や薬剤溶出性ステントの意義には議論の余地がある.ショック症例の救命率は低く,さらなる補助循環装置が必要である.
 プラーク安定化はACSの2次予防において最も重要な治療である.食事・運動・禁煙に関する生活習慣改善は最も効果的な治療法であり,低下した心機能の回復と合わせて心臓リハビリテーションが重要となる.しかし,入院期間の短縮のため十分なリハビリの時間が取れず,クリニカルパスの活用などが求められている.また,生活習慣として睡眠障害もプラーク破裂に関与していることを忘れてはならない.薬物療法においては,ガイドラインに基づいてLDLの管理を行うことがまず必要であるが,残存リスクへの介入が求められている.どのような薬物を用いて,どのような病態に介入が必要であるのか,ガイドラインに記載されていない新たなアプローチが臨床現場で求められている.
 本特集では日本におけるACSの診断,治療,予防について,最新の知見をそれぞれの領域の専門の先生に解説いただき,明日の臨床に役立つような内容とした.本特集が読者の患者のプラーク安定化,ACSの死亡率低下に寄与することを願っている.
企画編集:横井宏佳
小倉記念病院 循環器内科 主任部長
(末梢血管インターベンション部)
1.ACSの実態/宮内克己
2.ACSの救急医療体制/野々木 宏
3.ACSの心電図/木村一雄 他
4.ACSの病態/佐田政隆 他
5.ACSの画像診断〜侵襲的/非侵襲的プラーク診断〜/山岸正和 他
6.ACSの画像診断〜心機能,心筋バイアビリティ評価〜/有田武史
7.ACSの薬物療法〜プラーク安定化療法,抗血小板/抗凝固療法〜/伊藤 浩 他
8.ACSのインターベンション/後藤 剛
9.ACSの心臓リハビリテーション/長山雅俊
10.ACSの薬物治療〜心筋再生療法〜/南野哲男 他
11.ACSの睡眠呼吸障害/高田佳史
12.ACSの不整脈/青沼和隆 他
13.ACSの心不全/安田 聡 他

訂正文
月刊循環器CIRCULATION 2013年5月号において,目次の章タイトルに誤りがございましたので訂正いたします.

・p3 目次 10章
(誤)ACSの薬物療法〜心筋再生療法〜
(正)ACSの薬物治療〜心筋再生療法〜

皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます.