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BEAUTY 第00号
BEAUTY 第48号
美容皮膚医学BEAUTY 第50号(Vol.6 No.7, 2023)

A4変型判/80頁
定価4,400円(本体4,000円+税10%)
ISBNコード:978-4-287-91050-4

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特集●腋臭症・多汗症の治療とケア

企画編集/横関博雄

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 温熱や精神的な負荷,またそれらによらずに手掌,足底に大量の発汗が起こり,日常生活に支障をきたす状態になる状態は多汗症と定義されている.どの程度の汗をかくと多汗症と呼べるかは個人差があるが,局所がしっとりしている,汗が水滴として見える,したたり落ちるという表現の発汗量が多いようである.多汗症は,全身の発汗が増加する全身性多汗症と,体の一部のみ発汗量が増加する局所多汗症に分類されている.局所多汗症で原因が明らかでないものを原発性局所多汗症と定義しており,受診する患者の大部分がこの疾患である.続発性には結核などの感染症,甲状腺亢進症,褐色細胞腫などの内分泌代謝異常,神経疾患や薬剤性の全身性多汗症があるため,汗が多いかどうかだけでなく発熱の有無,手の震えや高血圧,糖尿病,薬剤の内服歴など詳細に問診をする必要がある.原発性腋窩多汗症の発症頻度は最近の本邦での疫学調査で5.7%とまれではない疾患であると考えられている.
 一方,腋臭症も本人が気づかない状態で汗の臭いにより周りの人に迷惑をかけるなど社会生活をしていくうえで非常に困る疾患である.しかし,ほとんどの方が無治療か市販の制汗剤,デオドラント製品を使用する程度で放置している.腋臭症は主にアポクリン腺の分泌物が原因と考えられている.アポクリン汗自体は無臭であるが,皮膚表面に達して表皮細菌叢の好気性コリネバクテリウム属菌がアポクリン汗の成分を分解してアンモニアや短鎖脂肪酸に分解し臭いの原因になると考えられている.
 多汗症の治療法に関して『原発性局所多汗症診療ガイドライン』では,治療の第一選択は塩化アルミニウム溶液の外用療法であるが,保険適用のある外用薬はなく,院内製剤として処方されているのが現状である.また,皮膚への刺激性が強く接触皮膚炎を起こしやすい.第二選択としては,アセチルコリンの分泌を抑制するA型ボツリヌス毒素の局注療法が「重度の原発性腋窩多汗症」に保険適用されているが,薬価が高く侵襲性があり効果は半年で減弱する.その他の治療法として,胸腔鏡下胸部交感神経遮断術などの手術療法,抗コリン薬プロパンテリン臭化物などの内服療法などがあるが,いずれも患者への負担や代償性発汗,緑内障,口渇,散瞳など全身性の副作用などが懸念されるため,長年新しい治療法が求められていた.一方,腋臭症の治療ガイドラインも策定され手術法,生活指導もエビデンスレベルで規定されている.
 最近,原発性腋窩多汗症の治療薬として,塩化アルミニウムと異なり,治療の際に特別な調製が必要ない2種類の抗コリン外用薬が新しく開発され,保険適用となった.この外用薬はA型ボツリヌス毒素の局注療法と異なり,侵襲性はなく,処方に際して医師の実技講習などの措置を必要とせず,患者自身が塗布でき患者および医療機関への利便性に優れている.副作用である全身的な抗コリン作用も少なく使いやすい薬である.さらに,新たな多汗症・腋臭症の選択肢として,電磁波を用いて汗腺を焼灼・凝固する新規治療法も開発された.このように腋臭症・多汗症の治療は新たなステップに入ってきているので,是非多くの人に腋臭症・多汗症の治療の新たな展開を知っていただきたいと思いこの企画を計画した.


横関博雄
(東京医科歯科大学 皮膚科 名誉教授)



1.汗腺の構造と発汗の機序/室田浩之
2.腋臭症の機序・疫学・診断/上中智香子
3.多汗症の機序・疫学・診断/藤本智子
4.腋臭症治療のアルゴリズム/白川裕二,細川 亙
5.多汗症治療のアルゴリズム/藤本智子
6.腋臭症・多汗症の外科的治療法/栗原美紗樹,森 弘樹
7.腋臭症・多汗症の外用療法/花房崇明
8.多汗症のボツリヌス療法/大嶋雄一郎
9.多汗症の交感神経遮断術療法/羽切周平,吉岡 洋
10.腋臭症・多汗症のマイクロ波療法/宗次太吉